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美容外科における創傷治療法
Methods of Wound Treatment in Cosmetic Surgery

末武信宏*、森田有紀子*、加治佐知子**
*さかえクリニック
**順天堂大学医学部病院管理学
Nobuhiro Suetake,M.D. *, Yukiko Morita,M.D. *, Tomoko Kajisa,M.D.**
*Sakae Clinic
**Department of Hospital Administration, Juntendo University School of Medicine

 

近年の美容外科手術の目覚しい進歩においても縫合創や手術創への創傷ケアの重要性はこれまで議論されることは少なかった。一般外科以上に創傷ケアに関する知識と手技を美容外科医は要求される。近年多くの創傷被覆剤も使用されているが、その基本的な使用法、創傷ケアに関する手技について考察を行う。
多血小板血漿(platelet rich plasma:PRP)は、遠心分離によって血小板が濃縮された血漿であり、血小板から放出される各種サイトカイン、Growth Factorの生理活性と、フィブリン・血小板糊の組織接着・創傷被覆効果が期待され、再生治療や創傷治癒の側面からの臨床応用が試みられている。今回我々は、美容外科領域の創傷ケアにもPRP療法を応用し、良好な結果を得たので報告する。

Key words:gauze dressing, sterilization, moist wound healing, platelet rich plasma, wound dressing

 

緒言

近年美容外科手術が目覚しく進歩している一方で、縫合創や手術創における創傷ケアの重要性はあまり議論されていない。一般外科医の間では、旧来の消毒とガーゼを用いた創傷治療が行われているようであるが、創を治癒させるには湿潤環境を保つことが必要であり、現在の創傷治療は、創傷被覆材等を用いたウエットドレッシング療法が主流となってきている。美容外科医は、一般外科医以上に創傷ケアに関する知識と手技を要求されるため、創傷治療についても習熟する必要がある。

今回我々は、従来の創傷治療を見直し、新しい創部へのアプローチを行い良好な結果が得られたので、基本的な創傷治癒理論を踏まえた上で最近の創傷治療法について、具体的な手技とともに紹介する。

 

本論

1)創傷治癒理論

創傷治療は、外傷でも術後の縫合創でも術後の感染や壊死などのトラブル治療においても基本は同じである。創傷治癒過程を細胞培養になぞらえて考えると、細胞を培養する際には細胞を培養液中に入れ湿潤環境を保つことが必要であるように、創傷が治癒する過程においても、培養液に相当する組織液が重要であり、創部を乾燥させてはいけないことが分かる。

外傷でも術後の縫合創でも感染が認められなければ、創部を閉鎖された湿潤環境に保持することが望ましい。組織液の中には創傷治癒を促進させる各種サイトカインや細胞成長因子が多く含まれている (図1.湿潤療法)。創部へガーゼを直接当てることは、傷を乾燥させることにほかならず、創傷治癒過程を妨げる行為である。従来、多くの外科手術で縫合創へのガーゼやソフラチュール?を当てる行為は当然のごとく行われてきたが、創傷治癒の過程を考えた場合、これらの行為は無意味であるどころかかえって創傷治癒を遅らせることとなる。更に、乾いたガーゼが創面に固着するため、処置をする度に出血させ患者に疼痛を与えることにもなり有害である 。

ひとくちに創傷といっても、縫合創と皮膚欠損創では治癒の仕方が異なる。縫合創は、コントロールされた創であり、一次治癒過程をとる。縫合後、すぐに血小板が活性化され各種サイトカインが放出され止血とともに好中球、マクロファージの遊走が創部へ起こる。48時間以内に上皮化が起こり72時間以降、毛細血管の増殖が起こる (図2.縫合創の治癒過程)。更に、皮膚欠損創も創の深さによって異なる治癒過程をとる。浅い皮膚欠損創では毛包と創縁の皮膚の双方から上皮化が起こるため治りが早いが、深い皮膚欠損創では肉芽が形成され周囲の皮膚から上皮化が起こるため治癒するまでに時間を要する。

2)消毒の功罪

創部が感染している状態(infection)と創部に細菌が存在している状態(colonization)は異なる。

創部が小さく見えてもInfectionに対しては直ちに、感染症の治療が必要となるが、創部が広範囲でもColonizationの状態なら感染症治療は不要であり、消毒をする必要もない。創が感染しているかどうかは、いわゆる炎症の四徴候(発赤、疼痛、局所熱感、及び腫脹)の有無で判断する。滲出液が出たり、黄色の壊死物質が創部に付いていても感染を起こしていない場合も多く、適切な診断が重要である。

縫合創や壊死に陥った手術創への消毒は原則として不要である 。創感染を防ぐためには、むしろ創面から壊死組織などの感染源を除去する、ドレナージやデブリードマンのほうがよほど重要である。消毒をしても感染源が除去される訳ではなく、消毒には感染予防効果はない。

また、消毒薬は選択的に細菌を殺菌しているわけではない。人の細胞と細菌を比較した場合、細菌は莢膜に覆われており消毒に対して人の細胞よりも抵抗性を示す場合がある。すると、創に消毒をしても細菌は死滅しないにも関わらず、人の細胞だけが傷害され、創傷治癒が遅延することとなる。

消毒薬は、生体に対して必ずしも有用ではない。クロルヘキシジン(ヒビテンR ,ヘキザックR)の使用によりアナフィラキシーショックを起こした症例も報告されており 、またポビドンヨード(イソジンR)も接触性皮膚炎を起こす率が高い 。

特に創部への消毒は、リスクがあることを美容外科医は認識すべきであり、術後の縫合創への消毒は消毒のメリット、デメリットを正しく理解して考慮すべきである。習慣的に縫合創への消毒を行ってはいけない。理由がない消毒は縫合創治癒の遅延と患者への痛みをもたらすだけである。縫合前、手術創に広範囲消毒を行う美容外科医も存在するが、消毒の組織障害性により感染が惹起されることもありうる。創面への消毒は有効な感染予防にも創傷治癒を促進するわけでもない。

 

症例

1)積極的な創傷治療法であるACR(Autologus Cell Rejuvenation)療法を行った症例を紹介する。62歳、女性。腋の脱毛治療後、熱傷を起こした症例。患者自身でスプレー式の創を乾かす市販の消毒薬を使用したこともあり、感染が起こり4㎝×7㎝の壊死を伴う潰瘍を形成していた。

まず、壊死組織をデブリードマンしたうえで、ACR療法を行った。自己血液を16ml採取し3000回転で8分間遠心分離してRegen社のキットを用いて多血小板血漿(PRP:Platelet Rich Plasma)を作成した(図7,8.PRPの実際)。作成したPRP 3ccを創底部および創縁へ33Gの針で注射し、創傷被覆材であるバイオクルーシブ?で閉鎖した。48時間閉鎖療法を行い、術後3日目には被覆材を張り替えた。その後順調に創は縮小し、施術後25日目には完全に創は上皮化した。

この間、通常通り入浴させ、施術3日後より毎日、創面をシャワーでよく洗浄するように指示しており、消毒は一切行わず、ガーゼを創部へ直接当てていない。

2)上眼瞼の切開創の縫合を行った症例。26歳、男性。縫合部をアルギン酸塩被覆材であるカルトスタット?を乗せ、ポリウレタンフィルムドレッシング剤であるオプサイト?で覆った。翌日の創には痂皮形成を認めず、創縁は完全に一致している。縫合5日目、抜糸後には上皮化が完了した。

3)他院で行われた小陰唇形成手術の再手術の症例(図10.症例3)。33歳、女性。術後縫合部にカルトスタット?を乗せた。これにより創部からの止血が可能となりすぐに溶解して縫合部位が湿潤環境となる。患者には毎日、創部へワセリンを塗布させ乾燥を防ぐように指示した。翌日から入浴可能としたが、術後の痛みは無かった。1週間後、抜糸直後には創部は完全に上皮化し痂皮の形成も認めなかった。

 

考察

多血小板血漿(platelet rich plasma:PRP)は、遠心分離によって血小板が濃縮された血漿であり、血小板から放出される各種サイトカイン、Growth Factorの生理活性と、フィブリン・血小板糊の組織接着・創傷治癒促進効果が期待される , 。血小板は、epidermal growth factor (EGF), transforming growth factor-beta (TGFβ), vascular endothelial growth factor (VEGF), やplatelet-derived growth factor(PDGF)などの各種の成長因子や数多くのサイトカインを放出する (図11.創傷治癒におけるネットワーク)。PRPでは、末梢血に比べて血小板が約2~6倍に濃縮されているが、白血球や各種成長因子も約2~6倍に濃縮される ため、これにより傷の治癒が促進されることが推測される。また、PRPには、血小板成長因子の生理活性のみならず、血小板による止血作用、フィブリン・血小板糊による組織接着作用、抗炎症効果による皮膚瘢痕抑制の効果が期待されており 、美容外科領域においても応用できる可能性が高い。これまで症例1のような広範囲の皮膚壊死の治療には植皮術も考慮しなければならなかったが、このPRP療法でも植皮術と遜色ない短期間で創は上皮化して治癒しており、十分治療法の選択肢となる。同様に、脇臭症の手術後の皮膚壊死の治療にも漫然と消毒を繰り返したり、植皮を行うのではなく、適切な創傷治療を行えば患者への日常生活制限もほとんどなく短期間で創傷治癒が得られる。

症例2および3で使用したカルトスタット?は、海草のコンブから抽出されたアルギン酸塩を繊維状にして不織布にした創傷被覆剤である 。アルギン酸は自重の15~20倍の水分を吸収し,浸出液などのナトリウムイオンを含む水分を吸収するとゲル化するため、このゲルが創面の湿潤環境を保つ働きをする。ゲル化する際にカルシウムイオンを放出することで極めて強力な止血効果を有するという特徴がある。これらのことから、この被覆材は術創以外でも出血を伴う創の治療に適しているといえる。本症例のようなドレッシング困難な手術部位でも被覆剤を使用すれば効果的な止血、創傷治癒が得られる。縫合創のケアとしてはアルギン酸塩被覆材とフイルムドレッシング材のみで十分であり、ガーゼやソフラチュールは不要である。

美容外科医は、縫合創への消毒、ガーゼ、入浴制限など従来のケア法に大きな誤りがあることに気づくべきである。手術の手技の鍛練のみならず縫合創のケアもしっかり行う必要がある。我々が考える手術創のケアのポイントとしては、まず血腫や死腔を作らないよう適切なドレナージと圧迫を行うことである。皮膚を縫合する前に創内を消毒しないことと、ガーゼやソフラチュール?を直接、縫合創へ当てないことも重要である。無論、術後の縫合創にも消毒はせず、48時間以降は入浴により創部を洗浄して清潔にしている。

また最近では創傷治療に関する考え方や手法が一変しており、有用な創傷被覆材 も数多く存在し、その使用法に習熟する必要がある。今後、正しい創傷治療法が広く普及し、その恩恵を受ける患者が増えることを願ってやまない。

Methods of Wound Treatment in Cosmetic Surgery
英文抄録(200語以内,149語)
Even with the remarkable strides made in cosmetic surgery in recent years, the importance of care for suture and surgical wounds has received little discussion. Cosmetic surgery requires greater knowledge and techniques for wound care than in general surgical procedures. Many wound-dressing materials have now come to be used; this discusses the fundamental usage methods and techniques of wound care.
Platelet-rich plasma (PRP) is an autologous concentration of platelets and growth factors, such as epidermal growth factor (EGF), transforming growth factor-beta (TGF-beta), vascular endothelial growth factor (VEGF), and platelet-derived growth factor (PDGF). Increase of the wound repair rate by local application of a PRP solution has been reported. Its efficiency is proved in the domain of surgery, for treatment of severe burns and for the transplantation of cells and tissues. In this study, we applied this PRP treatment to wound healing in cosmetic surgery and great effectiveness was proven.

 

参考文献

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ドクター紹介

医学博士 末武 信宏

末武信宏

順天堂大学医学部  非常勤講師

さかえクリニック 院長
一般社団法人先端医学スポーツアカデミー副代表理事
日本美容外科学会認定専門医
トップアスリート株式会社代表取締役

子供たちやアスリートを 間違った医療から守れ! 当院では、ボランティアで 新しい傷のケアの普及に 努めております。

<略歴>
重度身体障害者で苦しんだ亡き母親と2人で生きてきました。 障害者の方々や障害で悩む子供たち、病で苦しむ方々のためへ癒しを提供させていただける活動を命が続く限り行っていきたいです。 微力ながらボランティアでできること。少しづつ始めていきたいと考えております。
●昭和62年 3月 国立岐阜大学医学部卒業
オリンピック日本代表選手、プロ野球主力選手をはじめプロスポーツ選手の身体能力向上、各種格闘技のリングドクターとして創傷ケアに努める。
プロボクシングトレーナー(JBC認定)として世界ランカーらを指導・創傷ケアして世界チャンピオン育成に努めている。 第88回日本美容外科学会会長
●日本美容外科学会認定専門医  第219号
元日本美容外科学会医師会理事
2004年所属選手 アテネ五輪出場  さかえクリニックトラッククラブ(陸上競技部)総監督
●プロボクシングトレーナー (JBC認定 No.31532)
プロ野球主力選手 メディカルトレーナー
各種プロ格闘家専属トレーナー

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