私どものクリニックでもストレスによるアトピー性皮膚炎の悪化を心拍変動解析システムで自律神経機能定量評価として捉えていく試みをスタートしました。
アトピー性皮膚炎(AD)における低出力レーザー照射療法(LLLT, low reactive level laser therapy)には、かゆみを抑えるために局面に照射する対症療法としての治療目的がある。それとは別に、星状神経節近傍に照射して、かゆみ、発赤、皮疹の面積などを抑制、改善する方法も用いられている。若杉は星状神経節ブロック(SGB)療法の作用機序は、ヒトの身体に備わる自然治癒力(=恒常性維持機能, homeostasis)を賦活し、治癒に導くものであり、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患にはSGB療法が有効であると述べている。
AD患者で星状神経節近傍にLLLTを行った場合でも、局所麻酔薬を用いたSGBと同様に交感神経機能抑制効果が得られ、睡眠の質が向上するなど緊張状態の自律神経が安定化し、症状が軽快することが確かめられている。
この点に注目し、症状の重い交感神経が不安定なAD例に適応を限定し、星状神経節近傍へのLLLTを行っている。
LLLTには近赤外線レーザー照射装置のメディレーザーソフト(830nm, 出力①150mW, ②1000mW, ③10Wパルス照射(照射時間20ミリ秒、休止時間180ミリ秒))の3種類の装置を用いている。頚部の星状神経節近傍に片側5分で、両側に計10分間照射した。原則として1日1回とし、週に1~2回の頻度の実施を目安としている。
ADはストレスにより悪化する代表的な心身症の疾患である。ストレスにより不安が強くなり、うつ状態に陥ったり、神経症やいわゆる自律神経失調症を併発することがしばしばある。そのため自律神経がますます不安定になり、ADの症状が悪化する。症状悪化そのものが内因性ストレスとなり、さらにスパイラル的に増悪していくという負の連鎖現象がみられる。このような困難な状況下の重症例に星状神経節近傍のLLLTを行うと、ストレスにより起こっている交感神経優位状態が抑えられ、悪循環が断たれてADそのものが改善する症例が多くみられる。
本療法の臨床応用を通して、難治性AD例におけるストレス、心理的問題、自律神経の乱れと症状の変化との関連性を検討した。現状では、ADの一補助療法に過ぎない星状神経節近傍のLLLTではあるが、ストレス性の自律神経緊張状態を安定化させるというより根本的な治療目的をもった発展が期待される理学療法であることを述べる。